わたしのベッキーさん

北村薫『街の灯』
再読。わたしのベッキーさんシリーズが後述する『鷺と雪』で完結するというので、1作目のこの作品を読み返してみた。
久々の北村先生の文章を読むと、なんだかいいなあ、と思ってしまう。雰囲気、雰囲気。
1年以上前に読んだので、色々と忘れているところも多かったり。しかし読み返して良かった。

『鷺と雪』
シリーズ完結作。とはいっても、そこまで明確な終わりがない。
いや、それが作者の目的でもあると思う。この作品は現代ではなく、昭和11年という第二次世界大戦が始まるわずか4年前。
そう、現代作品ならこれから何が起こるかなんてわからない。故に読者もその作品の登場人物の行く先など想像しにくい。
しかし、この『鷺と雪』では、主人公の英子がこれからの激動の時代を迎えるということを知っている。

あと、素晴らしいなあと思ったのが、第1作『街の灯』の「虚栄の市」で首相が暗殺されても、
「私の日常はこれといって変わったことはなかった」
という記述が出てくるのだが、最後のシーンに間接的に関わってきて、切ない余韻を残し終わってしまう。

これからの英子のことを考えると切なくなってしまうけど、それこそベッキーさんが言ったように
「《あのような家に住む者に幸福はない》と思うのも、失礼ながら、ひとつの傲慢だと思います」
こういうことでしょう。英子たちの生きていた時代に住んでいた人々は戦争という大きなうねりの中に巻き込まれて、現代の我々はかわいそうだとか哀れだとか思ってしまうけども、その時の人々にも幸福があった訳ですしね。
ともあれ、素晴らしい作品でした。


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